2020/11/16
2020年のノーベル化学賞は、遺伝子編集技術「クリスパー・キャス9」を開発した、フランス出身でマックス・プランク感染生物学研究所(ドイツ)のエマニュエル・シャルパンティエ所長と、アメリカ出身でカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授の2名の女性が受賞しました。(昨年(2019年)はリチウムイオン電池を開発した、日本の吉野彰氏ら3名が受賞。)
クリスパー・キャス9は遺伝子のはさみとも呼ばれており、DNA二本鎖を切断(Double Strand Breaks=DSBs)してゲノム配列の任意の場所を削除、置換、挿入することができる新しい遺伝子改変技術で、正確に遺伝子コードの編集を可能にします。
最初に遺伝子編集技術「クリスパー」を発見したのは大阪大学の石野良純氏でしたが、発見した1987年当時はまだその役割は明確ではありませんでした。しかし、数十年経ち、シャルパンティエ氏とダウドナ氏はクリスパー・キャス9による遺伝子編集の可能性を発見しました。
この技術はがん治療の研究にも使用されています。遺伝子編集を高速、シンプルかつ応用や汎用化が可能なこの手法は、将来的にその実現性は高まりつつあります。
遺伝子編集による治療法としては、すでにCAR-T療法があります。自身の血液から取り出した免疫細胞に遺伝子改変を行い、がんを攻撃する力を高めた細胞を体内に戻すことでがんを治療する、オーダーメイドの治療法ですが患者毎に行うため、非常に複雑、かつ時間がかかるなど、問題点もあります。
そこで注目されているのがクリスパー・キャス9です。クリスパー・キャス9は、よりシンプルで速くかつ正確、そして汎⽤的に⾏える遺伝⼦編集技術であり、一つの解決策となる可能性があります。
スイスのクリスパー・セラピューティクス社は、クリスパー・キャス9を⽤いた医薬品の開発を⾏っていますが、当ファンドではまだ投資を⾏っていません。同社のがん治療での初期データが2020年10⽉21⽇に発表され、実⽤化の可能性が示されましたが、副作⽤のいくつかがまだ存在していることなど、まだ実⽤化に向けた確証を得られる段階までには⾄っていないと考えていることに加え、同社のCAR-T療法にも疑問が残っているためです。
将来的にクリスパー・キャス9の技術を⽤いると、CAR-T療法を超えた新たな治療法(例えば、体内での遺伝子編集など)の可能性が期待でき、カンドリアム社としてはいくつかのがんの治療法をイメージしています。多くのがんは遺伝⼦エラーを持つがん遺伝⼦によって引き起こされ、悪性細胞の増殖を促進しますが、これらの誤った遺伝⼦を排除できれば、遺伝性のがんを効果的に治療できます。
この研究はまだ初期段階であり、克服すべきハードルがあります。特に、⽣体内での遺伝⼦編集を⾏うためのがん細胞への安全で正確な送達⼿段の開発が課題です。しかし、これを実現するための取り組みが進められており、近い将来には⾮常にエキサイティングな時代が待っていると期待しています。
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