2024年08月22日
平素は格別のご愛顧を賜り厚く御礼申し上げます。
この度、平山賢一チーフストラテジストの論文(共著者 明治大学商学部 野田顕彦教授)“Measuring the Time-Varying Market Efficiency in the Prewar and Wartime Japanese Stock Market、 1924–1943”が、経済史分野の国際学術雑誌「Asia-Pacific Economic History Review」に掲載されました。
(内容について)
2013年のノーベル経済学賞は、効率的市場仮説に対して異なる結論を与えた2名の経済学者(Eugene FamaおよびRobert Shiller)を含む3名に与えられた。同じ仮説に対して異なる結論を与えた2人が同時にノーベル経済学賞を受賞したことについて多くの人が違和感を持つかもしれない。 しかし、近年の研究を通じて、当時のノーベル経済学賞選考委員会の判断が間違っていなかったことが示されつつある。その契機となったのが、Andrew Loによって提唱された適応的市場仮説である。
進化生物学的見地から効率的市場仮説を見直した同仮説は、「市場における資産価格は、投資家の行動バイアス、市場の構造変化、外生的な出来事など、市場を取り巻く状況の変化などを反映して形成」されており、市場における価格形成が情報効率的かどうかもまた通時的に変化・進化する、と主張している。
実際、アメリカの金融市場を対象とした多くの先行研究では、(1) 株式市場において様々な情報が価格に織り込まれる速度が時間を通じて上昇しており、(2) 情報インフラや市場制度の発達に伴い、流動性が高まることを通じ株式市場における価格形成機能が向上する、(3) 経済危機、自然災害、疫病の蔓延、戦争などの大災害が金融市場における価格形成に影響を与える、ことが明らかにされている。
他方で、日本の金融市場、とりわけ株式市場における価格データは第2次世界大戦を境に断絶されていることも相まって、株式市場を対象とした適応的市場仮説の検証は発展途上にある。本研究では、戦前・戦間期日本の株式市場における短期精算取引データをもとに、平山(2018)が算出した時価総額加重平均株価指数を用いて戦前・戦間期日本の株式市場における適応的市場仮説の成否について検証を行った。分析の結果、まず、戦前・戦中期日本の株式市場における情報効率性は、時代や歴史的な大きな出来事によって変化することが明らかになった。このことは、戦前・戦中期日本の株式市場において適応的市場仮説が支持されることを示唆している。次に、本研究で観察された情報効率性の変動は、株価指数が時価総額加重平均であるかどうかによって、先行研究とは大きく異なることが分かった。最後に、1930年代を通じて政府による市場介入が強まるにつれ、戦争リスク・プレミアムが上昇し、特に太平洋戦争が不可避となった時期から情報効率性が大きく低下していたことが明らかになった。
現代の金融市場においても、情報効率性の変化についての検証は、実務的にアクティブ運用とパッシブ運用についての議論に重要な貢献を与えるだろう。